電気主任技術者とは何か:保安監督を担う国家資格
電気主任技術者は電気事業法に基づく国家資格で、高圧・特別高圧で受電するビルや工場、発電所や変電所などの電気設備について、工事・維持・運用の保安を監督する立場の人です。設備を持つ側にはこの免状を持つ人を選任する義務があり、免状は第一種・第二種・第三種に分かれ、区分ごとに監督できる電圧の範囲が決まっています(電気技術者試験センター「電気主任技術者について」)。通称の「電験」は、この資格の試験である電気主任技術者試験の略です。
設備管理やビルメンテナンス、電気工事の現場で働きながら資格取得を考え始めた人、あるいは非破壊検査など別の保安・検査分野から電気保安に関心を持った人にとって、最初に知りたいのは「どんな法律の仕組みで必要とされ、どの区分で何ができ、どう取るのか」だと思います。中小規模のビルや工場の多くは第三種の監督範囲に収まり、第三種の試験は4科目の科目別合格制なので、働きながら数年かけて揃えていく受け方も選べます。
電気事業法が定める選任義務:誰が、どこに置くのか
電気事業法第43条第1項は、事業用電気工作物を設置する者に対し、その工事・維持・運用に関する保安の監督をさせるため、主任技術者免状の交付を受けている者のうちから主任技術者を選任しなければならない、と定めています(電気事業法(昭和39年法律第170号))。つまり義務を負っているのは設備の設置者であり、電気主任技術者はその義務を果たすために選ばれる側です。
試験センターの案内では、この対象を具体的に、高圧または特別高圧で受電するビル・工場などの電気設備や、電気事業用の発電所・変電所・送電線などの電気工作物と説明しています。そのうえで設置者は、原則として事業場ごとに電気主任技術者を選任する義務を負います(電気技術者試験センター)。オフィスビル1棟、工場1か所、発電所1か所といった単位で、保安の責任者を立てる仕組みです。
電気主任技術者は単に点検作業をする人ではなく、その事業場の電気設備の保安について、監督の責任を名指しで負う人です。現場の日常点検や測定を別の担当者が行っていても、保安の監督者として届け出られているのは主任技術者です。求人票に「電気主任技術者(選任)」と「電験保有者歓迎」が別々に書かれていることがあるのは、この違いによります。前者は選任される前提のポジション、後者は資格を持っていれば将来の選任候補として評価する、という意味合いで使われることが多い表現です。
選任された主任技術者の仕事は、設置者が定める保安規程を軸に回ります。電気事業法第42条は、事業用電気工作物の設置者に保安規程を定めて届け出ることを求めており、点検の頻度や記録の方法、事故時の連絡体制などはこの規程に沿って運用されます(電気事業法 第42条)。現場では、月次の巡視・点検、絶縁抵抗などの測定と記録、停電を伴う年次点検の計画と立ち会い、設備の増設・更新工事の確認、異常や事故が起きたときの初動判断といった業務を担うケースが一般的です。規模の小さい事業場では主任技術者自身が点検を行い、大きな事業場では点検チームを監督する立場になる、というように、主任技術者自身が点検作業を行う範囲は職場によって変わります。
なお同じ第43条の第2項には、自家用電気工作物(小規模事業用電気工作物を除く)の設置者が主務大臣の許可を受けて、免状の交付を受けていない者を主任技術者として選任できる例外も置かれています。また一定の条件を満たす自家用電気工作物では、保安管理業務を外部に委託する運用もあります。ただしこれらは要件の付いた例外で、原則は「免状を持つ人を事業場ごとに選任する」です。
第一種・第二種・第三種で監督できる範囲はどう違うか
電気主任技術者免状は三つの区分に分かれていて、違いは「どの電圧の設備まで保安を監督できるか」です(電気技術者試験センター「電気主任技術者について」)。
第一種電気主任技術者
すべての事業用電気工作物の工事・維持・運用の保安監督を行うことができます。電圧による上限がないため、大規模な発電所や基幹系統の変電所、超高圧の送電設備まで範囲に入ります。
第二種電気主任技術者
電圧17万ボルト未満の事業用電気工作物の保安監督を行うことができます。特別高圧で受電する大規模な工場やビル、中規模の発電所・変電所などが主な対象になります。
第三種電気主任技術者
第三種は電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物が対象で、出力5千キロワット以上の発電所は除かれます。通称「電験三種」と呼ばれる区分です。太陽光などの発電設備に関わる仕事では、電圧だけでなく発電所の出力もあわせて確認する必要があります。
区分ごとの違いは、監督範囲と試験の構成の2点にまとめられます。
- 第一種——監督範囲:すべての事業用電気工作物/試験:一次試験+二次試験
- 第二種——監督範囲:電圧17万ボルト未満/試験:一次試験+二次試験
- 第三種——監督範囲:電圧5万ボルト未満(出力5千kW以上の発電所を除く)/試験:一次試験のみ
一般的な中小規模のビルや工場は6,600ボルトの高圧で受電していることが多く、これは第三種の範囲に収まります。受験者が最も多く、求人でも目にする機会が多いのが第三種なのは、この範囲に該当する設備が数の上で多いためと考えられます。一方、特別高圧で受電する大きな工場やデータセンター、一定規模以上の発電所では、第二種や第一種が必要になるケースが出てきます。区分が上がるほど対象となる事業場の数は限られますが、その分、扱える設備の幅が広がります。
電験の試験はどう組み立てられているか

免状は、電気技術者試験センターが実施する電気主任技術者試験に合格して取得を目指すのが一般的です。試験の構成は区分によって異なり、第一種と第二種は一次試験と二次試験の2段階、第三種は一次試験のみです(電気技術者試験センター)。
一次試験:理論・電力・機械・法規の4科目
一次試験は次の4科目で構成されています。第三種の場合、この4科目がそのまま試験の全体です。
- 理論——電気回路・電磁気・電子回路など、電気の基礎
- 電力——発電・変電・送配電
- 機械——電動機や変圧器などの電気機器とその応用
- 法規——電気事業法をはじめとする関係法令と電気設備の技術基準
第三種の一次試験では、各科目の解答方式は五肢択一で、マークシートに記入する筆記方式と、パソコンで解答するCBT方式があります。2026年度(令和8年度)は上期と下期の年2回実施の案内になっています(電気技術者試験センター「第三種電気主任技術者試験 試験概要」)。
科目合格制度:4科目を一度に揃えなくてよい
一次試験は科目別合格制です。第三種の試験概要によると、4科目のうち一部だけ合格した場合は「科目合格」となり、最初に合格した試験以降、申請により最大で連続して5回までその科目の試験が免除されます(電気技術者試験センター「第三種電気主任技術者試験 試験概要」)。年2回の実施と組み合わせると、働きながら受験する人は、一度で4科目を揃えるのではなく、得意な科目や学習の進めやすい科目から順に合格を重ねていく受け方を選べます。
二次試験:第一種・第二種で課される2科目
第一種と第二種は、一次試験に合格した後に二次試験があります。二次試験は次の2科目です(電気技術者試験センター)。
- 電力・管理——発電・送配電設備の運用と保安管理
- 機械・制御——電気機器と制御の応用
二次試験では、一次試験で身につけた知識を、設備の運用や保安管理の判断に結びつける力が問われます。合格率は年度によって変動し、試験センターが試験結果として公表しています。
免状に更新制度はない:取得後に問われるのは実務
電気主任技術者の免状には更新制度がなく、一度取得すれば原則として有効です(電気技術者試験センター「電気主任技術者について」)。数年ごとに講習や試験を受け直さなければ資格を失う、という種類の資格ではありません。
非破壊検査の JIS Z 2305 に基づく資格が一定期間ごとの更新・再認証を要するのに対し、電験にはその手続きがなく、取得した免状を長く持ち続けられます。
ただし、更新がないことと、取得後に学び続けなくてよいことは別の話です。選任されて保安を監督する立場になれば、関係法令や電気設備の技術基準の改正、担当する設備の更新内容、新しく導入される監視機器の仕組みを把握し続ける必要があります。免状そのものは維持されても、現場で信頼されるかどうかは、その後の実務経験と知識の更新で決まる部分が大きい資格です。
電気主任技術者と電気工事士はどう違うか
電気主任技術者と電気工事士は、どちらも電気の国家資格で、同じ電気技術者試験センターが試験を実施しているため混同されがちです。しかし役割も根拠法も異なる別の資格です。
- 電気主任技術者——根拠法:電気事業法/役割:事業用電気工作物の工事・維持・運用の保安を監督する
- 電気工事士——根拠法:電気工事士法/役割:一定範囲の電気工事の作業に従事する
この違いは現場での立ち位置にそのまま表れます。電気工事士は配線や器具の取り付けなど、工事そのものを行うために必要な資格です。電気主任技術者は、その設備が安全に工事され、維持され、運用されているかを監督し、保安上の判断に責任を持つ立場です。電気主任技術者の免状を持っていても、それだけで電気工事士の免状が要る作業を行えるわけではなく、逆に電気工事士の免状で主任技術者として選任されることもありません。
実際の職場では、両方を持っている人が評価される場面も少なくありません。ビルメンテナンスや工場の設備管理では、日常の軽微な工事と保安の監督の両方に関わることがあるため、電気工事士から入って電験三種を目指す順番でキャリアを組み立てる人もいます。どちらを先に取るかは、今の仕事で工事作業が多いのか、設備全体の管理に近いのかで考えると決めやすくなります。
電験が活きる職場と、区分ごとの位置づけ

選任義務が設置者側にある以上、電気主任技術者が必要とされる職場は、高圧・特別高圧の電気設備を持つ事業場全般に広がっています。代表的な職場には、次のようなものがあります。
- ビルや商業施設の設備管理——受変電設備を含む建物全体の電気設備を維持する
- 工場の電気保全——生産設備に電力を供給する受変電設備や配電設備を管理する
- 電気保安の受託——複数の事業場の保安業務を外部から担う
- 発電所・変電所の運転保守——太陽光や風力などの再生可能エネルギー設備を含む
第三種で入ったあと、特別高圧の設備を扱う職場へ進むために第二種を目指す、という順序で区分を上げていく人もいます。
年収や求人の水準については、ここで具体的な数字は示しません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には「電気主任技術者」という名前の職種区分がなく、資格保有者だけの平均年収を公的統計から直接引くことはできないためです。職業情報提供サイトjob tagでは、電気主任技術者を電気工事士やビル施設管理、電気技術者など複数の職業の関連資格として掲げています。自分の仕事内容に近い職業の統計を参照するほうが、実態に近い数字を得られます。
非破壊検査など他の保安・検査資格との組み合わせを考えている人は、非破壊検査の資格一覧と難易度の記事で受験要件を比べられます。
どの区分から目指すか:判断の順番と相談の使い方
区分は、自分が関わりたい設備の受電電圧でほぼ決まります。高圧受電のビルや工場で働くなら第三種、特別高圧の設備や発電所まで視野に入れるなら第二種・第一種です。第三種であれば、年2回の試験と科目合格の免除期間を使って、1年目に2科目、2年目に残りを、といった形で計画を組むことができます。第二種・第一種は、一次試験の後に二次試験があることを前提に期間を見積もる必要があります。
もう一つ考えておきたいのは、資格を取った後にどんな職場で選任される立場を目指すのかです。免状に更新がない分、取得後のキャリアはどの現場で経験を積むかに左右されます。ビルの設備管理から始めるのか、工場の電気保全に進むのか、電気保安の受託や再生可能エネルギー設備の保守に関わるのかで、求められる経験の中身は変わります。
今の経験で電験をどう活かせるのか、どの区分をいつ目指すのがよいのかは、一人で求人票を眺めていても見えにくいものです。テンキャリでは、電気保安や設備管理、点検・検査の分野に詳しいアドバイザーが、今の経験と資格の状況をふまえて選択肢を一緒に整理します。無料キャリア相談では、今の職場で選任を目指せるのか、受験と並行して経験を積みやすい職場はどこかといった点を具体的に確認できます。転職するかどうかは、話してから決めれば大丈夫です。今の経験で見える職場と区分の選択肢を並べてみるだけでも、受験計画の立て方は変わってきます。
