電気主任技術者のキャリアはどう考えればよいか
電験三種を取ったものの、今のビル管理の仕事を続けるべきか、工場や発電所に移るべきか迷っている。上位の種別を取る意味があるのか分からない。電気主任技術者の資格を持つ人、これから取る人からは、こうした迷いをよく聞きます。資格の勉強方法よりも、取得したあとにどこで経験を積み、長く評価される専門性をどう組み立てるかが、キャリアの分かれ目になります。
電気主任技術者のキャリアは、法律で決まった選任義務、監督できる電圧範囲を決める種別、そしてどの設備を相手にするかという働く分野の3つで方向が決まります。選任義務は仕事が生まれる理由、種別は担当できる設備の大きさ、働く分野は日々の仕事の中身と身につく経験を決めます。
同じ第三種の免状を持っていても、ビルの受変電設備を見る人と、工場の生産設備を見る人と、太陽光発電所の保守に回る人とでは、10年後に積み上がる実務経験がかなり違います。取得直後の人は「まず選任されるにはどうすればいいか」、中堅の人は「上位種別や独立に進むべきか」で迷いやすく、どちらの段階でも、どの軸を先に伸ばすかを意識しておくと転職や社内異動の判断がぶれにくくなります。
選任義務はなぜ仕事の需要を支えるのか
電気主任技術者は、電気事業法に基づく国家資格です。高圧や特別高圧で受電する工場・ビルなど、事業用電気工作物を設置している事業者は、電気設備の工事・維持・運用に関する保安の監督をさせるため、電気主任技術者を選任しなければなりません。根拠は電気事業法第43条で、選任したときは国への届出も必要です(電気技術者試験センター「電気主任技術者について」、e-Gov法令検索「電気事業法」)。
この「置かなければならない」という仕組みが、仕事の需要の土台になっています。景気が悪くなって設備投資が止まっても、すでに動いている受変電設備や発電設備の保安監督は止められません。建物や工場が稼働している限り、誰かが保安の責任を負う必要があるため、職務そのものがなくなりにくいという性質があります。
保安の担い手が「設置者の社員として選任される人」だけではない点も、この資格の特徴です。電気事業法施行規則第52条第2項により、電圧7,000ボルト以下で受電する需要設備や、出力5,000キロワット未満で電圧7,000ボルト以下で連系する太陽電池発電所などは、国の承認を受けたうえで、保安管理の業務を外部の電気保安法人や個人で開業している電気管理技術者に委託できます(e-Gov法令検索「電気事業法施行規則」)。この場合、設置者は電気主任技術者を自社で選任しないことができます。社内で選任される道と、外部から複数の事業場を受け持つ道があるため、同じ資格でも働き方の選択肢が複数あります。
免状に更新制度がなく、一度取得すれば原則として有効であることも、長期のキャリアを考えるうえでは大きな特徴です(電気技術者試験センター)。ただし、制度改正や新しい設備への対応は現場で学び続ける必要があり、資格を持っているだけで評価が続くわけではありません。
電気設備の保安需要はなぜ続いているのか
設備側:再エネ発電設備と受変電設備の増加・老朽化
太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電設備は、ここ十数年で各地に設置が進みました。発電設備は設置して終わりではなく、稼働を続ける限り点検と保守が必要です。あわせて、高度成長期以降に整備された工場やビルの受変電設備も更新時期を迎えているものが多く、更新工事の計画や立ち会い、既存設備の状態把握といった仕事が生まれています。
既存の設備を点検・診断して長く使い続ける維持管理は、社会インフラ全体の課題として国土交通省も情報を発信しており(国土交通省「インフラメンテナンス情報」)、電気設備の保安もその流れの中にある仕事です。
人側:保安を担う人材の高齢化
一方で、電気保安の現場では経験豊富なベテランが多く、世代交代が課題になっている職場が目立ちます。
設備が増える一方で担い手の世代交代が進む状況では、実務経験を積んだ中堅層が求められやすくなります。ただし、需要の強さは地域や設備の種類によって差があるため、「どこでも引く手あまた」と考えず、自分が狙う分野の求人を具体的に見て判断することが大切です。
第三種・第二種・第一種で監督できる範囲はどう違うか
電気主任技術者には第一種・第二種・第三種の3つの種別があり、保安の監督ができる範囲が異なります。2026年時点で電気技術者試験センターが資格概要に示している範囲は、次の3区分です(電気技術者試験センター「電気主任技術者について」)。
- 第一種:すべての事業用電気工作物
- 第二種:電圧17万ボルト未満の事業用電気工作物
- 第三種:電圧5万ボルト未満の事業用電気工作物(出力5千キロワット以上の発電所を除く)
多くの人が最初に取るのは第三種、いわゆる電験三種です。一般的なビルや中小規模の工場の受変電設備は第三種の範囲に収まることが多く、最初のキャリアは第三種で十分に組み立てられます。試験も第三種は一次試験のみで、理論・電力・機械・法規の4科目を科目別に合格していく方式です。合格した科目は3年間有効なので、数年かけて4科目をそろえる受け方もできます。第一種と第二種は一次試験に加えて、電力・管理と機械・制御の2科目の二次試験があり、難易度も一段上がります。
キャリアの面で種別が効いてくるのは、担当できる設備の規模です。第二種の電圧17万ボルト未満という範囲まで広がると、特別高圧で受電する大規模工場や、規模の大きい発電所・変電設備の保安監督も視野に入ります。第一種はさらに上限がなくなり、電力会社の基幹設備や大規模発電所の保安にも関われます。
上位種別を目指すかどうかは、「今の職場で担当できる設備に満足しているか」で考えると決めやすくなります。ビル管理で第三種の範囲の設備を担当しているうちは、上位種別がすぐに業務に直結しないこともあります。一方で、大規模工場やメガソーラー、特別高圧の受変電設備を扱う職場に移りたいなら、第二種の取得が選択肢を大きく広げます。
電気主任技術者はどんな職場で働けるのか

電気主任技術者の代表的な職場は、ビル管理・工場設備・電気保安法人(電気管理技術者)・再エネO&Mの4つで、どこで働くかによって仕事の中身と身につく経験が変わります。
ビル管理
オフィスビル、商業施設、病院、ホテルなどの受変電設備を中心に、電気設備全体の保安を担当します。日常点検や月次点検、年次点検の計画と立ち会い、停電作業の段取り、テナント工事の確認などが主な仕事です。空調や給排水、防災設備と一体で管理することが多いため、電気以外の設備も含めた建物全体の管理経験が身につきます。未経験から入りやすい一方で、電気の専門性だけを深めたい人には物足りなく感じる場面もあります。
一般的な年次点検では、事前に停電の範囲と時間をビルの管理会社やテナントと調整し、当日は受電を止めてから遮断器や変圧器の点検、絶縁抵抗の測定などを進めます。復電の順番を誤るとテナントの機器に影響が出るため、作業手順を組み立てて最終的に「送電してよい」と判断するのは、選任された主任技術者の役割です。
工場設備
製造業の工場で、受変電設備から生産ラインの動力設備までを保安・保全の立場で担当します。電気主任技術者として選任されつつ、設備保全部門の一員として故障対応や更新計画にも関わるのが一般的です。生産が止まると損失が大きいため、トラブルの予兆をつかむ保全の考え方が鍛えられます。特別高圧で受電する大規模工場では、第二種以上を求める求人も見られます。
電気保安法人・電気管理技術者
外部委託の形で、複数の事業場の電気設備を定期的に巡回して点検します。1人で多くの事業場を受け持つため、さまざまな業種・規模の設備を短期間で数多く見られるのが特徴です。月次点検では、受け持ちの事業場を順に訪ね、受変電設備の外観や計器の値、異音や異臭の有無を確認して記録を残し、気になる点があれば設置者に改修を提案します。経験を積むと個人で開業する道もあり、年齢を重ねても続けやすい働き方として選ばれています。
個人で保安管理業務を受託するには、電気事業法施行規則第52条の2と、それを受けた経済産業省告示(平成15年経済産業省告示第249号)の要件を満たす必要があります。実務経験は、第一種で3年、第二種で4年、第三種で5年が基本です。第二種・第三種は「自家用電気工作物の保安管理業務に関する講習」を修了すると3年に短くなります。免状の交付を受ける前の実務経験は、半分の期間として数えます。第三種で独立を考えるなら、免状を取ってから何年で要件を満たせるかを、早めに計算しておくと計画が立てやすくなります。
再エネO&M
太陽光発電所や風力発電所の運用・保守(O&M)を担当します。発電所の巡回点検、パワーコンディショナなど機器の不具合対応、発電量の監視と異常の切り分けなどが主な仕事です。発電所は地方や郊外に点在していることが多く、移動を伴う働き方になりやすい一方、再エネ設備の知見は今後も価値が続く分野です。
4つの領域は行き来が可能で、たとえばビル管理で基礎を固めてから工場設備や電気保安法人へ移る、工場での保全経験を活かして再エネO&Mに移る、といった動き方があります。どの領域でも共通して評価されるのは、実際に選任された経験と、停電作業やトラブル対応を自分で段取りした経験です。
経験年数ごとに描くキャリアパスの例
第三種を取得した人の場合、最初の数年で補助として設備を覚え、次に選任経験を積み、10年目前後で進む方向を選ぶ、という流れが一つの典型です。職場や地域によって進み方は変わります。
取得直後から3年目:現場で選任される準備をする
資格を取っただけでは、すぐに選任されるとは限りません。多くの職場では、先輩の主任技術者のもとで点検や停電作業の補助を担当しながら、設備の構成や保安規程の運用を覚えていきます。この時期は、受変電設備の単線結線図を読めること、年次点検の流れを一通り経験することが目標になります。
3年目から10年目:選任経験を積み、領域を定める
実際に電気主任技術者として選任され、保安の責任者として判断する経験を積む時期です。この段階で、ビル管理・工場設備・電気保安法人・再エネO&Mのどの領域を軸にするかを決めておくと、次の選択がしやすくなります。大規模な設備を扱いたい場合は、この時期に第二種の取得に取り組む人が多くいます。
10年目以降:規模を広げるか、独立するか、管理に回るか
経験を重ねると、選べる道はおおむね次の3つに分かれます。
- 上位種別を取得して大規模な設備の保安を担う道:特別高圧の工場や発電所など、扱う設備の規模を広げたい人に向きます。第二種以上は一次試験に加えて二次試験があるため、選任経験を積みながら数年がかりで準備する人が多い道です
- 電気管理技術者として独立する道:自分のペースで複数の事業場を受け持ち、年齢を重ねても現場に関わり続けたい人に向きます。個人で保安業務を受託するには、第三種なら5年(講習修了で3年)といった種別ごとの実務経験の要件を満たす必要があるため、目指す時期から逆算して経験を積んでおきます
- 管理職に回る道:複数の事業場や保安担当者をまとめ、保安体制づくりに関わりたい人に向きます。複数の設備で選任された経験や、後輩の指導経験が評価の材料になります
どれが正解ということはなく、働き方の希望や家庭の事情も含めて選ぶことになります。
非破壊検査の資格を組み合わせると何が変わるか

電気保安のキャリアをもう一段広げる方法として、非破壊検査の資格との組み合わせがあります。非破壊検査は、材料や構造物を壊さずに内部のきずや劣化を調べる技術で、発電設備やプラントの保全でも使われています。
電気設備の点検では、赤外線サーモグラフィで端子部や接続部の異常発熱を見つける手法が広く使われています。この赤外線サーモグラフィ試験(TT)は、非破壊検査技術者の資格を定める JIS Z 2305 の8つの試験方法のひとつで、日本非破壊検査協会(JSNDI)の認証制度ではレベル1からレベル3まで設けられています(日本非破壊検査協会「非破壊試験技術者の資格及び認証」GA1)。温度分布の読み方や記録の残し方を体系的に学んで資格として示せると、点検結果の説得力が増します。
工場や発電所では、電気設備と機械設備が同じ保全計画の中で管理されています。設備によって使われる非破壊検査の方法は、たとえば次のように異なります。
- 受変電設備の端子部・接続部:赤外線サーモグラフィによる異常発熱の確認
- 発電設備の配管・圧力設備:超音波探傷試験(UT)や浸透探傷試験(PT)
- 熱交換器のチューブ:渦電流探傷試験(ET)
電気の保安監督ができて、さらに非破壊検査の考え方も分かる人は、設備全体の健全性を判断できる人材として保全部門で重宝されやすい傾向があります。
どこから手をつけるかは、担当している設備で決めるのが現実的です。電気設備が中心なら、日常の点検に直結する赤外線サーモグラフィ試験(TT)から、発電所やプラントの保全に関わっているなら職場で実際に使われている方法から取り組むと、学んだことをすぐ業務で生かせます。
非破壊検査の資格には、探傷方法ごとに訓練時間や実務経験の要件があります。資格の種類と受験要件は非破壊検査の資格一覧と難易度で比較できます。また、インフラや設備の維持管理の需要が今後どう動くかは非破壊検査の将来性をインフラ老朽化とAI時代の視点で見るでも整理しています。
年収や求人を調べるときの注意点
キャリアを考えるうえで年収は気になるところですが、電気主任技術者の年収を公的統計で直接調べるときには注意が必要です。厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、「第一種電気主任技術者」「第二種電気主任技術者」「第三種電気主任技術者」と同じ名前の職種区分はありません(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。
そのため、統計を見るときは、自分の仕事内容に近い職種や、勤め先の産業の区分を選んで参照することになります。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)では、電気主任技術者を関連資格として掲げている職業が、ビル施設管理や電気技術者など複数あります(職業情報提供サイト(job tag))。自分の仕事がどれに近いかを考える手がかりとして使えますが、どの職業の数値も資格保有者だけの平均ではない点に注意してください。
たとえば、job tag が令和7年賃金構造基本統計調査を加工して掲載している全国値は次のとおりです。
同じ電気主任技術者を関連資格とする職業でも、年収にこれだけの開きがあります。job tag の電気技術者は、発電所での設計・運転管理や電気設備の技術開発まで含む職業で、ビル施設管理より平均年齢も5歳ほど若いため、差のすべてを資格や職場の違いとして読むことはできません。それでも、建物の設備管理から発電・受変電設備の技術職へ軸足を移すと、条件の幅が変わりやすいことは読み取れます。
求人では、選任者として採用されるのか、既存の主任技術者の補助として採用されるのかで、任される範囲や手当が変わりやすくなります。選任者は保安の最終判断と緊急時の対応を担う分、資格手当や役職手当が付く求人も見られ、補助としての採用では、実務経験を積みながら選任を目指す前提になっていることが一般的です。求人票では、年収の額に加えて次の点を見ると条件の違いが見えやすくなります。
- 選任者としての採用か、補助としての採用か
- 担当する設備の規模と、必要な種別
- 夜間や休日の呼び出し対応の有無
検査・保安系の職種で年収がどう決まるかは、非破壊検査の年収を資格レベル×経験年数×業界で整理したガイドも参考になります。
結局、次に何を確認すればよいか
電気主任技術者のキャリアは、選任義務に支えられた需要の上で、種別と働く分野の選び方によって形が変わります。次に確認したいのは、今の職場で選任経験を積めるかどうか、担当したい設備が第三種の範囲に収まるか、そして応募する求人が選任者としての採用か補助かの3点です。これが決まると、上位種別をいつ取るか、非破壊検査の資格を重ねるかの判断の根拠もはっきりします。
今の職場で積める経験と、次に進みたい分野とのあいだに距離を感じているなら、一度外から選択肢を並べてみるのも方法です。テンキャリでは、ビル管理から工場や再エネO&Mへの移り方、独立を考える時期といった電気保安・設備管理のキャリアの相談に加えて、非破壊検査との掛け合わせも含めた相談を受け付けています。転職するかどうかは、話してから決めれば大丈夫です。今の経験で見える業界や選択肢を並べ直すだけでも、次の一手はかなり見えやすくなります。
