ETレベル2はどんな資格で、誰がどんなときに受けるのか
ET(渦電流探傷試験、Eddy Current Testing)のレベル2 は、JIS Z 2305(非破壊試験技術者の資格及び認証)の体系で、自分で試験計画を立て、結果を判定し、報告書をまとめる立場として認証される資格です。レベル1 が手順に沿って試験を実行する役割であるのに対し、レベル2 は手順そのものを設計し、判定根拠を説明できる立場になります。受験者の中心は、ET の業務を日常的に担当している非破壊検査技術者と、ET をキャリアの軸にしようと考えている UT/MT/PT 経験者です。
この記事は 2026 年度の受験者を想定し、2025 年時点で公開されている JSNDI の公式案内をもとに整理しています。受験には JIS Z 2305 が定める視力・訓練・経験の3要件、試験は一次(共通基礎+ET 専門の筆記)と二次(実技と手順書作成)、合格率は年度差はあるものの ET 業務経験の有無で体感難度が大きく変わる、という構造です。ET は UT や RT と比べると適用範囲が「導電性材料の表層・近表層の欠陥検出」に絞られ、原理の理解と探傷器の操作・キャリブレーション精度が合否を分けやすい資格でもあります。
ETレベル2の受験資格と訓練時間(公式要件)
ET レベル2 を受けるには、JSNDI(一般社団法人 日本非破壊検査協会)が定める JIS Z 2305 に基づく認証要件を満たす必要があります。要件は視力・訓練・経験の3軸で構成されています。
視力要件
視力要件は、JIS Z 2305 のすべての試験種で共通で、近視力(30〜40 cm)でヤエーガー No.1 または同等のチャート、メルチャートなど指定された読み取り基準を満たすこと、色覚については ET の試験種では色の識別が必要となる場面があるため、判定に支障のない色覚であることが条件です。視力は当日の試験会場で簡易的に確認されるので、必要があれば矯正レンズを準備しておきます。
訓練時間
訓練時間は、ET レベル2 については JIS Z 2305 で定められた所定の訓練(2018 改正版で示されている訓練科目とコマ数)を、JSNDI 認定の訓練機関、または同等のインハウス訓練で受けていることが求められます。ET の場合、レベル2 単独で受講する場合と、レベル1 を経由して上積み受講する場合で訓練の合計時間が異なる設計になっているため、自分のルートに合わせた訓練証明をそろえる必要があります。
経験時間
経験時間は、ET 業務での実務経験を JIS Z 2305 が指定するレベル2 の最低時間以上、満たしている必要があります。ここでいう「経験」は ET の探傷業務に従事した時間で、自社で ET 業務をやっていない場合や、別の試験種(UT/MT/PT 等)が中心の現場の場合、要件を満たすのに時間がかかることがあります。実務経験は雇用主の証明書面で申請するため、上長と人事に早めに段取りをかけておくのが安全です。
受験要件と訓練・更新の最新の取り扱いは、JSNDI 認証資格の公式案内に集約されています。改正のたびに細目が動くため、申請年度の案内を都度確認しておくのが前提になります。
試験では何が問われるのか(一次・二次・口述)
ET レベル2 の試験は、大きく一次試験(筆記)と二次試験(実技)の2つで構成され、レベル2 では実技の中で口述に近い「手順書作成」と「結果判定・報告」が問われます。
一次(共通基礎・ET 専門)
一次試験の筆記は、共通基礎部門と ET 専門部門の2部構成です。共通基礎部門は、非破壊検査の各試験法の概要、安全管理、規格・コード(JIS Z 2305 の体系を含む)、基本的な材料学・欠陥論など、レベル2 として現場で意思決定するときに前提となる知識を問われます。ET 専門部門は、電磁誘導の原理、コイル設計、リフトオフ・フィルファクタなどの影響因子、表示方式(インピーダンス平面、時間軸表示)、感度設定、リファレンス標準試験片の意味、典型的な疑似指示の取り扱いなど、ET 固有の知識領域がまとまって問われます。
二次(実技)
二次試験の実技は、実際の探傷器・標準試験片・対比試験片を使って、レベル2 として独立して試験を組み立て、判定し、報告するところまでを評価する構成です。実技で踏むフローは次のようなステップで進みます。
- 試験条件の設定(コイル、励磁周波数、感度、しきい値)
- 対比試験片を用いた再現性の確認と感度校正
- 本試験の実施と指示の取得
- 有意な指示と疑似指示・ノイズの判別
- 手順書と結果報告書の取りまとめ
口述要素(手順書の根拠説明)
口述要素としては、レベル2 受験者が手順書を作成する過程で「なぜこの周波数を選んだか」「なぜこの感度設定にしたか」を試験官に説明できることが期待されます。レベル1 が「与えられた手順を正しく実行する」役割であるのに対し、レベル2 は「手順そのものを設計できる」立場になるため、根拠を言語化する練習を実技対策の中に組み込んでおくと、本番で迷いが減ります。
ETレベル2の合格率はどのくらいか、難易度のリアル
ET レベル2 の合格率は、JSNDI が試験種ごとに公表している直近年度の統計を見ると、UT や RT のような受験者数の多い種目に比べて、年度ごとのブレが大きい傾向があります。これは、ET の受験者数自体が UT/RT より少なく、母集団のばらつきが結果に効きやすいためで、難易度そのものが他試験種より極端に高いというわけではありません。
難易度の体感を分けているのは、現場で日常的に ET 業務に触れているかどうかです。日々 ET の探傷器を扱っている人は、感度設定やリフトオフの感覚が体に入っているため、実技で時間配分を崩しにくく、ペーパーで点を取ることに集中できます。一方で、ET 業務が単発の応援案件中心、あるいは UT/MT/PT が主業務で ET は補助的、という人は、実技でコイル選定とリファレンス合わせに時間を取られ、報告書のクオリティまで詰められないまま時間切れになりやすい構図があります。
もう一つ、ET レベル2 の難所は「指示の解釈」にあります。ET は表示が時間波形ではなくインピーダンス平面であることが多く、UT のような直感的な「エコーの位置と高さ」だけでは判断できません。位相と振幅の組み合わせから、欠陥の種類や深さの傾向を読み取る訓練が要るため、慣れていない受験者は実技で詰まりやすく、これが合格率を下げる要因になります。
たとえば現場で起きやすいつまずきの典型として、リフトオフ補正の方向(プローブ離隔の影響を打ち消すための位相回転)を取り違えたまま本試験に入り、欠陥指示を「リフトオフ変動の残り」として読み流してしまうケースがあるとされます。レベル1 ではあらかじめ条件が与えられるため気づかずに済んでも、レベル2 で自分が条件設計する立場になると、こうした取り違えがそのまま誤判定につながるため、実技の評価で減点が積み重なりやすい論点です。
結論として、ET レベル2 は資格集めとして片手間に受ける試験ではなく、ET 業務を日常的にやっている人が、自分の判断と説明を体系化するために受ける試験という位置づけが現場感覚に近い。この前提を持って準備期間を組むと、勉強時間の見積もりが大きく外れにくくなります。
ETレベル2は他試験種と何が違うのか
ET レベル2 が他の試験種(UT/RT/MT/PT など)と違うのは、探傷器のセットアップそのものが試験対象という点です。UT であれば、装置の表示は時間軸エコーで、ある程度直感的に「ここに反射源がある」と読める。RT であればフィルム上に画像が出るので、可視化された欠陥像を読影する訓練が中心になる。これに対して ET は、装置のセットアップ自体を正しく組み立てて初めて欠陥が見える試験法です。前段の設計が試験で問われるため、準備の比重が他試験種と少し異なります。
主要試験種の棲み分けは次のとおりです。
- ET(渦電流探傷試験): 導電性材料の表層・近表層欠陥/インピーダンス変化/熱交換器チューブ・航空機構造材など
- UT(超音波探傷試験): 内部欠陥/時間軸エコー/溶接部・厚板・配管
- RT(放射線透過試験): 内部欠陥の画像読影/フィルムまたはデジタル検出器/溶接部
- MT・PT(磁粉・浸透探傷試験): 表面開口欠陥/磁粉模様または浸透指示/溶接部・鋳造品
ETで押さえる必須論点
- 励磁周波数の選定根拠(表皮効果、対象材料の導電率・透磁率、検出したい欠陥の深さ)を説明できる状態にする
- リフトオフ補正と位相回転の意味を、インピーダンス平面のベクトルで言語化できるようにしておく
- 対比試験片(ASME 標準ブロックや JIS 規格の対比試験片)の役割を、感度校正と判定基準の設定に分けて説明できるようにする
- 多軸プローブ・差動プローブ・絶対値プローブそれぞれのメリットと、向いている検査対象の違いを整理する
- 渦電流探傷で出やすい疑似指示(端部効果、形状効果、リフトオフ変動)の代表例と、それを除外する手順を答えられるようにする
これはレベル1 で出る「手順を実行する」レベルでは触れずに済んでいた領域です。レベル2 になると、上記のすべてを自分で設計し、判断する立場になるため、勉強の方向もそこに合わせる必要があります。
ET と他試験種の棲み分けは、共通基礎部門の点数を安定させるだけでなく、現場で自分が ET 案件を提案するときの説明にもそのまま使えます。レベル2 取得は資格取得のゴールではなく、案件提案のスタート地点になります。
ETレベル2にはどれくらいの勉強時間が必要で、どう進めればよいか
ET レベル2 の準備期間は、ET 業務の経験量によって大きく変わるため、最低何ヶ月と一律に言うのは難しいところがあります。それでも、業務の合間に勉強する標準的な社会人を想定すると、計画期・基礎期・実技期・直前期の4段階で4〜6ヶ月程度の枠を取れると、安全側に倒した準備ができます。
- 計画期: 試験4〜6ヶ月前。受験ルートの確定と申請書類の段取り
- 基礎期: 試験3〜4ヶ月前。共通基礎と ET 専門のテキストを一周
- 実技期: 試験2〜3ヶ月前。手順書作成と判定の練習
- 直前期: 試験1ヶ月前。過去問演習と弱点補強
計画期(試験4〜6ヶ月前)
計画期は、自分のルート(レベル1 経由か、レベル2 直接受験か)を確定し、JSNDI の公式案内で訓練証明・経験証明・申請書類の要件を最後まで読み切る期間です。ここで申請書面の準備に必要なリードタイムを確認しておかないと、勉強そのものは終わっているのに書類が間に合わないという、もったいない取りこぼしが起こります。
基礎期(試験3〜4ヶ月前)
基礎期は、共通基礎と ET 専門の知識領域を、テキストベースで一周する期間です。テキストは JSNDI が出している ET レベル2 向けのテキストを正本にし、副読本として電磁誘導・材料学の基礎を補強する本を1冊だけ加える、くらいの量が現実的です。テキストを増やしすぎると、論点の重複で時間を浪費しやすくなります。
実技期(試験2〜3ヶ月前)
実技期は、所属先の探傷器または訓練機関の探傷器で、対比試験片を使って手順書作成・条件設定・判定までを一通り回す練習をする期間です。ここで意識したいのは、答えがある問題を素早く解くのではなく、自分の判断の根拠を声に出して説明する訓練を入れることです。レベル2 の口述要素は、結局のところ手順書の根拠を説明できるかに集約されるため、声に出して説明する練習が、本番の説明品質に効きます。
直前期(試験1ヶ月前)
直前期は、過去問演習と弱点補強です。共通基礎は時間配分を間違えると専門で時間が足りなくなる典型的な落とし穴があり、過去問を解きながら時間配分の感覚を体に入れておくと、本番での事故を減らせます。実技は、当日と同じ手順で、対比試験片を使った再現練習を最低2セット入れておくと、初見の試験片に当たっても土台が崩れにくくなります。
関連記事として、UT/RT/MT/PT と並べて非破壊検査資格全体の合格率傾向を確認したい場合は 非破壊検査資格の合格率まとめ。ET 業務の全体像(仕事内容、現場、年収など)から逆引きしたい場合は ETの完全ガイド。JIS Z 2305 体系の中でレベル1〜3 と試験種の関係を俯瞰したい場合は 非破壊検査資格の総合ガイドを参考にしてください。
現場でETレベル2はどう運用され、どんな安全管理が求められるか
ET は X 線のような放射線管理区域を必要としないため、現場での安全管理は RT と比べると簡素ですが、それでもないわけではありません。電気を扱う以上、機器の絶縁・接地・感電予防は基本で、製造現場やプラント内の高所作業・狭隘部作業を伴う場合は、現場ルールに沿った労働安全衛生管理の対象になります。
レベル2 の役割としては、自分が手順を設計する立場で、安全に試験を実行できる条件を確保することが含まれます。たとえば、可動部のある設備や通電中の設備に対して ET を実施する場合、停止条件・LOTO(lockout/tagout)・周辺作業との取り合いを、現場の安全管理者と一緒に決めることになります。試験そのものの精度だけでなく、その試験を安全に成立させるための前提条件を見るのもレベル2 の領分です。
労働安全衛生上の義務の根拠は、労働安全衛生法とその施行令・規則に整理されています。法令名で安全管理を理解しておくと、現場で「なぜこの段取りを踏むのか」を新人にも説明できる立場になり、レベル2 として期待される判断品質に近づきます。なお JIS Z 2305 そのものの規格本文の体系は、JISC(日本産業標準調査会)の標準検索から確認できるため、改正履歴を含めた一次情報の確認先として押さえておくと安全です。
ETレベル2 を取った後はどう進むか
ET レベル2 を取った後の道は、大きく3つの方向に分かれます。1つ目は、ET を軸に発電プラント・航空機構造・熱交換器チューブなど ET の独壇場と言える領域で経験を積み、ET レベル3 や周辺資格(UT、TOFD/PAUT)と組み合わせて専門性を立体化していく道。2つ目は、ET をキャリアの持ち札の1つにしつつ、UT/RT 等の主力試験種で日常業務を回し、提案や報告で ET の引き出しを活かしていく道。3つ目は、ET レベル2 取得をきっかけに、検査会社や検査部門の中で評価が変わる転職市場のタイミングをとらえる道です。
3つ目について補足すると、ET レベル2 単独で待遇が一段上がるかは、所属先の評価制度によってばらつきが大きいというのが現場感覚です。ET レベル2 の本当の価値は、資格手当1段ぶんではなく、案件選びの幅と説明の説得力が広がるところにあるため、転職市場を視野に入れる場合は、自分の現職での評価制度と外部市場での評価制度を見比べるのが妥当な進め方です。
ここから先の進路を、ETレベル2 を軸に整理してみたい人には、無料キャリア相談で、保有資格と経験から見える次の選択肢を一緒に並べる時間を設けることもできます。転職するかどうかは、話してから決めて構いません。たとえば「ET レベル2 + UT で発電プラント系」「ET 単独で熱交換器・配管の薄肉劣化検査特化」「ET を持ち札にしつつ UT/RT 主力で総合検査会社」のような現実的な進路像を 2〜3 案、最初に並べるところから始められます。
