非破壊検査の合格率は「レベル・段階・試験方法」で大きく変わる
会社から非破壊検査の資格試験を勧められた、レベル2の次にレベル3を考えている、これから業界に入るために資格を取りたい。立場は違っても、最初に気になるのは「実際どのくらい受かるのか」だと思います。
日本非破壊検査協会(JSNDI)が実施する資格試験は、非破壊試験技術者の資格と認証の仕組みを定めた日本産業規格 JIS Z 2305 に基づいています(規格本文は日本産業標準調査会(JISC)の JIS 検索で閲覧できます)。その合格率は、ひとつの数字では語れません。2025年秋期の公表値では、レベル1の一次試験が47.9%、レベル2の一次試験が38.8%、レベル3の基礎試験が15.4%でした。同じレベルでも一次試験と二次試験で20ポイント近く差があり、試験方法によっても大きく開きます。3つの軸のうち合格率が最も低いのは、受験者数が多いレベル2の一次試験(4割弱)と、レベル3の基礎試験(15%前後)です。
本文の数値は、JSNDI が公表している試験結果と認証制度の文書から引いています。
JIS Z 2305 の資格試験はどんな段階に分かれているのか

JIS Z 2305 の新規試験は、レベル1・レベル2が一次試験(筆記)と二次試験(実技)の2段階です。一次試験は一般試験と専門試験で構成され、二次試験は一次試験の合格者だけが受験できます。
合格の基準は、一次試験が一般試験と専門試験の両方で70%以上、二次試験が実技試験で70%以上の得点です。レベル2の二次試験では、試験体ごとの実技に加えて NDT 指示書の作成でも70%以上が求められます(JSNDI 認証制度文書 GA1 §7.1)。公表される合格率は、欠席者を除いた受験者のうち基準を満たした人の割合です(NDT フラッシュ Vol.75 No.3「JIS Z 2305 2025年秋期 新規資格試験結果」の注記)。資料に載っている申請者数には欠席者も含まれるため、合格者数を申請者数で割っても公表の合格率とは一致しません。
レベル3は「基礎試験」と「主要方法試験」の2段階
レベル3は二次試験も筆記で、一次試験にあたる基礎試験(パートA〜C)と、二次試験にあたる主要方法試験(パートD〜F)に分かれています。GA1 が定める各パートの出題範囲は、材料の知識から手順書の作成まで6つに分かれます。
- パートA:材料科学と製造技術に関する知識
- パートB:JIS Z 2305 に基づく資格と認証のスキームに関する知識
- パートC:RT または UT を含む4つの NDT 方法についてのレベル2の基礎知識
- パートD:申請した NDT 方法に関するレベル3の知識
- パートE:関連する分野での NDT 方法の適用に関する問題
- パートF:関連する分野での NDT 方法の手順書の作成問題
基礎試験は同じ時期にパートA〜Cのすべてで70%以上、主要方法試験はパートD〜Fのすべてで70%以上が合格の条件です。どれかひとつのパートでも70%を下回ると不合格になり、総合点で取り返すことはできません。この条件が、レベル3の合格率を下げる主な要因になっています。
不合格になったときの再試験
一次試験か二次試験で不合格になった人は、次回と次々回の試験に限り新規再試験として受験できます。二次試験で不合格になった場合は、再試験では一次試験が免除され、二次試験から受け直します。レベル1・レベル2の一次試験には、パート別の再試験はありません。レベル3の主要方法試験は「パートD・E」と「パートF」の2区分で再試験が行われ、合格した区分は再試験の機会の間は免除されます(GA1 §6.2・§8.2)。
レベル1・レベル2の合格率はどのくらいか(2025年春期・秋期)
2025年春期と秋期の全方法合計で比べると、レベル1・レベル2を通じて最も多くの受験者がつまずいているのはレベル2の一次試験です。春期は2025年9月8日に訂正版が出ているので、訂正後の数値を使っています(NDT フラッシュ Vol.74 No.9 訂正版、同 Vol.75 No.3)。2026年10月時点で JSNDI のサイトから確認できた新規試験結果のうち、この2回が直近のものです。
レベル1の合格率
- 一次試験:2025年春期 53.3%(申請1,299人)→ 2025年秋期 47.9%(申請1,447人)
- 二次試験:2025年春期 69.2% → 2025年秋期 76.0%
レベル1は一次試験でおよそ半数が通過し、二次試験は7割前後が合格しています。方法別では浸透探傷試験(PT)の一次試験が春期63.0%・秋期60.2%と比較的高く、超音波探傷試験(UT)は春期49.1%・秋期46.0%でした。
レベル2の合格率
- 一次試験:2025年春期 38.9%(申請4,451人)→ 2025年秋期 38.8%(申請4,686人)
- 二次試験:2025年春期 60.8% → 2025年秋期 58.2%
レベル2は受験者数がもっとも多い区分で、2回とも一次試験が4割を切っています。レベル1と比べても一次試験の合格率が9〜14ポイント低く、二次試験との差も20ポイント前後あります。実技に自信がある現場経験者でも、筆記の準備が足りなければここで止まります。
レベル3の合格率はなぜ低いのか
レベル3はレベル2資格を持っている人だけが受験できる上位資格ですが、合格率はさらに低くなります。基礎試験の合格率は2025年春期が14.3%、秋期が15.4%、主要方法試験の全方法合計は春期19.9%、秋期23.7%でした。資格を得るには基礎試験(15%前後)と主要方法試験(20%前後)の両方を通る必要があります(Vol.74 No.9 訂正版 表2・表3、Vol.75 No.3 表2・表3)。
基礎試験はパートCが合格率を押し下げている
パート別に見ると、2回とも同じパートで合格率が落ちています。
- パートA(材料科学・製造技術):春期 33.4% → 秋期 36.8%
- パートB(認証スキーム):春期 63.0% → 秋期 75.8%
- パートC(4方法のレベル2基礎知識):春期 23.3% → 秋期 20.7%
2回とも、自分の専門以外を含む4つの NDT 方法の基礎知識を問うパートCが最も低く、次いでパートAが低い結果です。ひとつの方法で長く経験を積んできた人ほど、ほかの方法の基礎まで70%に届かせるのは簡単ではありません。
主要方法試験は手順書作成のパートFで差が出る
主要方法試験で目立つのは磁粉探傷試験(MT)のレベル3で、合格率は春期5.0%、秋期7.3%でした。パートDとパートEはそれぞれ3〜7割程度通過しているのに、手順書の作成を問うパートFの合格率が春期・秋期ともに6.7%にとどまっています。パートFは関連分野の手順書を作成する問題で、選択肢から答えを選ぶのではなく、規格や検査条件をもとに手順を書き起こす力が問われます。現場では既存の手順書に沿って検査することが多く、ゼロから手順書を書く機会は限られているケースが多いため、ここに練習時間を割けているかどうかが差になりやすいと考えられます。MT のレベル3は、すべてのパートで70%以上という条件のもとでパートFが全体の合否を決めている典型です。MT の出題範囲はMTレベル3の試験内容と勉強法で詳しく扱っています。
試験方法によって合格率はどう違うのか
同じレベル2の一次試験でも、方法によって合格率には大きな差があります。主要な5方法の2回分を比べると、同じ回の中でも20ポイント近い開きがあります(出典は前掲の2資料)。
- 浸透探傷試験(PT)レベル2:春期 43.5% → 秋期 49.6%
- 渦電流探傷試験(ET)レベル2:春期 50.5% → 秋期 44.3%
- 放射線透過試験(RT)レベル2:春期 45.4% → 秋期 31.6%
- 超音波探傷試験(UT)レベル2:春期 33.9% → 秋期 30.7%
- 磁粉探傷試験(MT)レベル2:春期 31.5% → 秋期 34.0%
UT レベル2は申請者数が春期1,271人、秋期1,249人と最も多い区分ですが、一次試験の合格率は2回とも30%台前半です。一方で、RT レベル2は春期と秋期で14ポイント近く動いています。1回分の数字だけで「RTは易しい」「RTは難しい」と判断すると、受験する回によって印象が逆になります。
受験者が少ない区分は数字が大きく振れる
受験者数が少ない区分では、数人の結果で合格率が大きく変わります。たとえば ET のレベル3は、主要方法試験の合格率が春期15.8%、秋期47.8%でした。ひずみゲージ試験(ST)や漏れ試験(LT)のように申請が数人から数十人の区分では、0%や100%といった極端な値も出ます。こうした区分では合格率の高低を難易度の比較に使わず、出題範囲と自分の経験の重なりで準備量を見積もるほうが現実的です。合格率は受験者の顔ぶれによっても動くため、1〜2ポイントの上下に意味を読み込みすぎないことも大切です。
受ける方法は、合格率ではなく仕事で使う方法で決めるのが基本です。そのうえで、受ける方法の過去2〜3回分の推移を見て、一次と二次のどちらが関門になりやすいかを確認しておくと、準備の配分を決めやすくなります。
受験前に満たすべき訓練時間と実務経験は?
合格率と同じくらい大事なのが、受験と資格登録に必要な要件です。要件を定めているのは、JSNDI が認証の手続きと条件をまとめた認証制度文書(GA1)で、以下は2026年7月1日改訂版に基づく値です(JSNDI GA1 Rev.20260701)。
訓練時間は「受験前の過去5年以内」に必要
新規に受験する人は、過去5年以内に方法とレベルごとに決められた最小限の訓練時間を満たしている必要があります。主な方法では、レベル1資格の有無によっても必要な時間が分かれます。
- RT・UT:レベル1が40時間、レベル2はレベル1資格保持者で80時間・非保持者で120時間
- MT・PT:レベル1が16時間、レベル2はレベル1資格保持者で24時間・非保持者で40時間
- ET:レベル1が40時間、レベル2はレベル1資格保持者で48時間・非保持者で88時間
同じレベル2でも、レベル1を持っているかどうかで必要な訓練時間が変わります。また、超音波厚さ測定(UM)のような限定レベル1の資格は、ここでいう「レベル1資格保持者」には含まれません。レベル3の受験には、申請する方法のレベル2資格を持っていることが前提になります。
実務経験は合格後の認証申請で問われる
誤解されやすい点ですが、GA1 では受験申請の時点では経験期間を問わないとしています。経験が必要になるのは、試験に合格した後の新規認証登録の手続きです。合格と同時に新規認証申請書が送られてきますが、申請できるのは合格後2年以内です。その間に方法ごとの経験月数を満たして申請する流れになります。
- RT・UT・ET:レベル1が3か月、レベル2がレベル1資格所有者で9か月・非所有者で12か月
- MT・PT:レベル1が1か月、レベル2がレベル1資格所有者で3か月・非所有者で4か月
- レベル3:工学や科学を2年以上履修した人(A)は RT・UT・ET で18か月・MT・PT で12か月、それ以外(B)は36か月・24か月
注意したいのはレベル3のBに該当する人です。RT・UT・ET の36か月は申請できる期間(24か月)を超えるため、GA1 は合格後に経験月数が足りるかを試算してから受験申請するよう求めています。新規認証の申請期限は合格後2年という条件が、レベル3の受験時期を左右します。資格体系の全体像は非破壊検査の資格一覧と難易度にまとめています。
視力の証明も必要になる
新規受験では、近方視力と色覚について雇用主が証明した書類も求められます。近方視力は矯正してよく、過去1年以内の証明が必要です。裸眼の数値基準ではないため、眼鏡やコンタクトレンズを使っている人も要件を満たせます。
合格率から見て、勉強時間はどこに配分すべきか

筆記は一般・専門それぞれで70%を超えているかで点検し、レベル3は最も合格率の低いパートから着手する。この2点を軸に勉強時間を割り振ると、合格率の低い関門に準備を集中できます。
一次試験は「一般・専門それぞれで70%」を基準に点検する
過去問や問題集を解くときは全体の正答率ではなく、一般試験と専門試験それぞれで70%を超えているかを分けて確認するほうが実戦的です。JSNDI は NDT フラッシュで、正答率の低かった問題の類題と解説を公開しています。2025年秋期の結果と同じ号には RT レベル1の類題が載っており、一般試験では X 線と物質の相互作用や照射方向の考え方といった原理の問題が取り上げられています(Vol.75 No.3「RTレベル1 一般・専門試験のポイント」)。日々の作業手順として身に付けていることでも、原理として説明できるかどうかは別なので、こうした解説で弱い論点を確かめておくと準備の抜けを減らせます。
二次試験は探傷から指示書作成まで通しで練習する
二次試験の合格率は一次試験より高いものの、レベル2では方法によって4割を切る回もあります。2025年秋期は UT レベル2の二次試験が38.3%でした。レベル2は指示書作成も採点されるので、時間を計って試験体の探傷、記録、指示書作成までを一続きで練習し、どの工程で時間が足りなくなるかを把握しておくと失点を減らせます。普段の業務で使っている記録様式と試験で求められる記載項目が同じとは限らないため、記載の抜けがないかも通し練習の中で確かめておくと安心です。
レベル3は最も低いパートから手を付ける
レベル3では、基礎試験のパートC、主要方法試験のパートFのように合格率が極端に低いパートがあります。自分が受ける方法のパート別合格率を確認し、得意なパートの仕上げは後回しにして、最も低いパートの対策から始めるのが効率的です。主要方法試験は区分ごとに再試験があるので、1回目で通らなかった区分に絞って次の回に備える計画も立てられます。勉強時間の目安は非破壊検査の勉強時間の目安に、独学でどこまで進められるかは非破壊検査の資格は独学で取れるかに整理しています。
合格した資格はキャリアにどうつながるか
合格後に自分がどの位置に入るのかは、資格登録件数の内訳から見当がつきます。2025年10月1日時点の JIS Z 2305 資格登録件数は83,692件です(Vol.75 No.3「非破壊試験技術者資格登録件数」)。
- レベル別:レベル1 約18%、レベル2 約72%、レベル3 約10%
- 方法別(出典の図1で関連区分を合算した比率):浸透探傷試験と関連区分(PT・溶剤除去性浸透探傷検査 PD・水洗性浸透探傷検査 PW)36.2%、超音波探傷試験と超音波厚さ測定(UT・UM)30.2%、磁気探傷試験と関連区分(MT・MY・ME・MC)16.6%、放射線透過試験(RT)8.7%、渦電流探傷試験(ET)5.4%
レベル2が7割を占めるということは、レベル2は現場で検査を担う技術者の標準的な資格だということです。レベル2を取ると、検査の実施と結果の評価を任される範囲が広がり、担当できる案件の幅が変わります。一方、レベル3は登録件数の1割にすぎず、合格率も基礎試験が15%前後、主要方法試験が20%前後です。手順書の作成や技術者の指導など、検査体制の責任を担う立場に進む道が開けます。方法の組み合わせもキャリアの差になります。PT と UT で登録の3分の2を占める一方、RT や ET は1割未満なので、保有者が多い方法を軸にしつつ、現場で必要とされる保有者の少ない方法を加えると、担当できる検査の範囲が広がります。
資格は取って終わりではありません。有効期間は5年で、5年目に更新、10年目に再認証の手続きがあり、大きな中断なく業務を続けていることも再認証の条件になります(GA1 §9.3・§10)。資格を持ち続けること自体が、現場で検査を続けている証明になる仕組みです。資格レベルと年収の関係は非破壊検査の年収を資格レベル別に整理した記事で確認できます。
合格率は受験計画にどう使えばよいか
合格率を受験計画に使うときの順番は、「要件を満たせるか」「一次と二次のどちらが自分の関門か」「受ける方法の合格率は回ごとにどう推移しているか」の3つです。
立場によって、最初に見るべき数字も変わります。会社から受験を勧められた若手の方は、いきなりレベル2から受ける場合は RT・UT の訓練が120時間必要になる点と、一次試験の合格率がレベル2で4割弱である点を先に押さえておくと、準備期間を見誤りにくくなります。レベル2からレベル3を考えている方は、基礎試験の合格率が15%前後であることに加え、学歴区分Bに当たるかどうかで受験時期の考え方が変わる点を押さえておくのが安全です。これから業界に入る方は、受験時点では経験期間を問われない一方、合格後2年以内に経験月数を満たせる職場で働いていることが資格登録の前提になります。
受ける方法とレベルが決まったら、JSNDI の資格試験ページで最新の要項と試験日程を確かめ、公表資料で直近の推移を見たうえで勉強の配分を決めると、遠回りが減ります。
資格を取ったあとにどんな現場で経験を積むか、今の会社で次のレベルを目指すか、別の分野に広げるかは、人によって答えが違います。次に受けるレベルと方法の優先順位や、経験月数を積める現場かどうかといった点は、話しながら整理すると見えやすくなります。無料キャリア相談では、今の保有資格と希望する働き方を伝えてもらえれば、それをもとに選択肢を一緒に並べ直します。転職するかどうかは、話してから決めれば大丈夫です。
