レベル3の基礎試験は何から準備すればよいか
非破壊検査のレベル2を取り、現場で検査指示書を書いたり後輩を見たりするようになると、次の目標としてレベル3が視野に入ってきます。ところが調べ始めると、レベル3の試験はレベル1・2とは構成がまったく違い、「基礎試験」と「主要方法試験」という二段階の筆記試験になっていることに気づきます。とくに最初の関門である基礎試験は、自分が持っている方法とは別の方法の知識まで問われるため、何から手を付ければよいのか迷う人が少なくありません。
レベル3の基礎試験は、材料・製造の知識(パートA)、認証制度の知識(パートB)、四つの方法のレベル2相当の知識(パートC)の三つのパートで構成される、方法共通の筆記試験です。
三つのパートのどれか一つでも基準に届かなければ不合格になるため、勉強の要点は苦手なパートを早く見つけ、そこに勉強時間を寄せることにあります。資格制度全体の比較から確認したい場合は、非破壊検査の資格一覧と難易度もあわせて参照してください。
レベル3の基礎試験とは何か
日本非破壊検査協会(JSNDI)が JIS Z 2305:2013 に基づいて行う技術者認証では、レベル1・2の試験が「一次=筆記(一般試験と専門試験)、二次=実技試験」という構成であるのに対し、レベル3は一次・二次ともに筆記です。一次試験が基礎試験、二次試験が主要方法試験と呼ばれ、基礎試験はパートA・B・C、主要方法試験はパートD・E・Fに分かれています。合格基準は各パート70%以上で、パートの合計点で判定されるわけではありません(JSNDI「JIS Z 2305:2013 認証制度の案内」GA1(2026年7月1日版))。新規資格試験は春期・秋期の期ごとに行われ、結果も期ごとに公表されています。問題数や試験時間などの実施要領は、期ごとの受験案内を JSNDI の資格・認証のページで確認できます。
二つの試験の違いは、対象が方法共通か方法別かにあります。
項目 | 基礎試験 | 主要方法試験 |
|---|---|---|
試験の位置づけ | 一次試験(筆記) | 二次試験(筆記) |
パート | A・B・C | D・E・F |
対象 | 全方法に共通 | 申請した方法(UT・MT など) |
問われる内容 | 材料・製造、認証制度、四つの方法の基礎知識 | レベル3の知識、関連分野での適用、手順書の作成 |
レベル3の試験を「実技のある試験」と思い込んでいると準備の方向を誤ります。レベル3では探傷器を操作する実技試験は課されません。現場で手を動かす力はレベル2までに確かめられており、レベル3ではその上の判断と、手順書に落とし込む文書化の力が筆記で問われます。主要方法試験まで含めた方法別の全体像は、UT レベル3試験の内容のような方法別の解説で確認できます。
パートA・B・Cでは何が問われるか
基礎試験の三つのパートは、出題の対象がそれぞれまったく異なります。各パートの出題範囲は GA1 に定められています(GA1 §7.1.2)。
パートA:材料科学・製造技術の技術的知識
パートAは、検査対象となる材料と、その材料がどう作られ加工されるかについての知識を問います。金属材料の性質、鋳造・鍛造・溶接・圧延といった製造工程、それぞれの工程で生じやすいきずの種類と発生の仕組みなどが中心になります。現場では「この溶接部にはどんなきずが出やすいか」を経験的に知っていても、それを材料と製造の側から説明できるかどうかが問われるのがこのパートです(GA1 §7.1.2 パートA)。
パートB:認証スキームの知識
パートBは、JIS Z 2305:2013 に基づく資格と認証の仕組みそのものについての知識です。レベルごとの責任範囲、受験の要件、認証の有効期間と更新・再認証の扱いなど、制度の運用ルールが対象になります。レベル3は他の技術者を監督・指導する立場になるため、制度を自分の言葉で説明できることが求められます(GA1 §7.1.2 パートB)。
パートC:四つの方法のレベル2の基礎知識
パートCは、RT又はUTを含む四つの方法について、レベル2相当の基礎知識を問うパートです。自分がレベル2を持っている方法が一つだけでも、ここでは複数の方法の原理や特徴、適用範囲を理解している必要があります。たとえば MT と PT を中心に仕事をしてきた人でも、RT か UT のどちらかを含めて四つの方法を準備しなければなりません(GA1 §7.1.2 パートC)。
受験するには何が必要か(資格・訓練・実務経験)

レベル3の受験には、申請する方法のレベル2資格を持っていることが前提になります(GA1 §9.1)。そのうえで、方法ごとに定められた訓練時間と実務経験を満たす必要があります。受験の申込みや最新の要綱は JSNDI の資格・認証のページから確認でき、方法別の訓練時間は GA1 の表9.1.1-1 に、実務経験は表10.3-1 に定められています。レベル3の訓練時間は方法ごとに異なります(GA1 表9.1.1-1)。
方法 | レベル3の訓練時間 |
|---|---|
RT・UT | 40時間 |
ET | 48時間 |
MT | 32時間 |
PT | 24時間 |
ST | 20時間 |
LT | 72時間 |
ここで注意したいのは、レベル3の訓練時間がレベル2より短い方法があることです。RT・UT はレベル2で80時間の訓練が必要ですが、レベル3は40時間です。また MT と PT はレベル2では同じ時間でも、レベル3では MT が32時間、PT が24時間と値が分かれます(GA1 表9.1.1-1)。講習会の案内では、方法別の専門コースと全方法共通の基礎コースに分けて時間が書かれていることがあるため、自分が受ける講習の合計が要件を満たしているかを確かめておくと安心です。
実務経験の月数は学歴によって二通りに分かれます。技術専門学校・短期大学・単科大学・総合大学で2年以上、工学または科学を履修した人(A)は短い月数で、それ以外の人(B)はその倍の月数が必要です。A に該当する場合は成績証明書の提出が求められます(GA1 表10.3-1)。
方法 | レベル3の実務経験(A:工学・科学を2年以上履修) | レベル3の実務経験(B:A以外) |
|---|---|---|
RT・UT・ET・LT | 18か月 | 36か月 |
MT・PT・ST | 12か月 | 24か月 |
新規認証の申請書には使える期間の定めがあります(GA1 §9.1.3)。必要な月数が長い B に該当する人は、受験を申し込む前に、その期間内で経験月数を満たせるかを GA1 で確かめて試算しておくと、認証の申請が間に合わない事態を避けられます。
基礎試験はどれくらい難しいか
JSNDI は新規資格試験の結果を期ごとに公表しており、レベル3の基礎試験の合格率も確認できます。2025年春期の結果では、レベル3の一次=基礎試験の合格者は71名、合格率は14.3%でした。同じ期の二次=主要方法試験は、全方法の合計で申請685名に対して合格125名、合格率19.9%です(JSNDI「新規資格試験結果」(Vol.74 No.9))。いずれも2026年10月時点で確認した期の結果です。
この数字を読むときは、合格率の定義に注意が必要です。合格率は欠席者を除いた受験者のうち、該当区分の全パートで70%以上を取った人の割合です(同資料 表2の注)。得意なパートで高得点を取っても苦手なパートが一つでも70%に届かなければ合格にならないことが、合格率を押し下げる一因です。
また、合格率は期ごとに変動します。単年度の数字だけで「この試験は何割しか受からない」と決めつけるより、自分の苦手パートがどこにあるかを把握するための目安として使うほうが実用的です。レベル別・方法別の合格率の読み方は、非破壊検査の合格率で詳しく扱っています。
パートごとにどう勉強すればよいか

基礎試験の勉強は、パートごとに性格が違うため、同じやり方で全体を回すより、パートごとに進め方を変えるほうが効率的です。
パートAは現場の経験を材料・製造の言葉に置き換える
パートAでは、現場で見てきたきずを、材料と製造工程の側から説明し直す練習が効果的です。たとえば溶接部の割れや溶込み不良、鋳物の巣、圧延材のラミネーションといったきずについて、どの工程で、どういう理由で生じるのかを整理していきます。普段扱っていない製造方法も出題範囲に入るため、教科書で製造工程の全体を一度通読し、自分の現場と結び付かない部分を重点的に補うと効率よく範囲を埋められます。
パートBは制度の数字と責任範囲を正確に覚える
パートBは範囲が比較的はっきりしているぶん、得点源にしやすいパートです。レベル1・2・3それぞれの責任範囲、訓練時間や実務経験の要件、有効期間と更新・再認証の周期といった制度の数字と言葉を、規格と案内文書の表現に沿って正確に覚えることが中心になります。現場の慣習で覚えている言い方と、規格上の定義が一致しているとは限らないため、GA1 を読み込み、規格の用語で説明できるようにしておくことが得点につながります。
パートCは持っていない方法から先に手を付ける
パートCは勉強量が最も多くなるパートです。四つの方法のうち、自分がレベル2を持っている方法は復習で済みますが、経験のない方法は原理から学び直す必要があります。準備の順番としては、まず四つの方法をどれにするかを決め、そのうち経験のない方法から先に手を付けるのが現実的です。各方法のレベル2の教材や過去の試験範囲を使い、原理・装置・適用できる対象と限界・代表的な指示の見え方を、方法ごとに同じ観点で整理していくと、比較しながら覚えられます。
どのパートでも、問題演習で間違えた箇所をそのままにせず、規格や教科書のどこに根拠があるかまで戻って確認する習慣が、合格基準を安定して超える力になります。レベル別の勉強時間の目安は、非破壊検査の勉強時間も参考になります。
受験までの段取りをどう組むか
基礎試験は勉強の範囲が広いため、受験日から逆算して段取りを組むことが合格への近道になります。目安としては次の順番で進めると、要件の確認漏れと勉強の偏りの両方を防げます。
- 申請する方法のレベル2資格と、レベル3の訓練時間・実務経験の要件を満たしているか(または受験時期までに満たせるか)を確認する
- パートCで準備する四つの方法を決める
- 各パートの問題演習で苦手パートを特定する
- 苦手パートに勉強時間を多めに配分し、得意パートは演習で維持する
- 試験の直前期は三つのパートを通しで解く
働きながら準備する人にとっては、現場の繁忙期と勉強の山場が重ならないよう、受験する期を選ぶことも大切です。基礎試験に合格した後は主要方法試験が控えているため、基礎試験の勉強中から、主要方法試験で問われる手順書の作成を意識して、普段の業務で手順書や指示書を読む機会を増やしておくと、次の試験への移行がスムーズになります。
レベル3を取った後、キャリアにどうつながるか

レベル3は、現場で検査を実施する立場から、検査の方法と手順を決め、全体に責任を持つ立場への移行を示す資格です。GA1 §5 では、レベル3の責任を次のように定めています(GA1 §5)。
- 試験設備・センターと職員についての全責任
- 指示書や手順書の作成とその妥当性の実証
- 規格・コード・仕様書の解釈
- 使用する方法や手順書の指定
- 全レベルの技術者の監督と指導
レベル2が規格や手順書を作業条件に合った指示書に書き換える立場であるのに対し、レベル3は手順書そのものを作る立場です。そのため、検査の方法だけでなく、現場の安全管理との整合も考える必要が出てきます。事業者の安全衛生管理の枠組みは労働安全衛生法で定められ、RT のように放射線を使う検査では、電離放射線障害防止規則が被ばくの管理を定めています。JSNDI の認証とは別の法令の枠組みですが、手順書を作る立場ではこうした法令との関係も踏まえた判断が求められます。
キャリアの面では、レベル3は検査部門のまとめ役、品質保証の担当、検査手順の作成や顧客との技術的な調整を担う役割につながりやすい資格です。どの役割を担うかは勤め先の体制によって異なりますが、手順書を作り、規格を解釈できることは、検査の実施者から検査の責任者へと役割を広げるうえでの土台になります。レベル3の年収の傾向については、NDT レベル3の年収で整理しています。
なお、資格は取って終わりではありません。認証の有効期間は5年で、5年目に更新、10年目に再認証があります。再認証試験の形式はレベル1・2が実技試験であるのに対し、レベル3は筆記試験で、筆記試験に代えて書類審査(クレジットシステム)を選ぶ方法もあります(GA1 §6.3・§10)。取得後も知識を更新し続けることが、レベル3としての役割を保つ前提になります。
基礎試験の準備と、その先の選択肢
レベル3の基礎試験は、材料・製造、認証制度、四つの方法の知識という、現場の経験だけでは埋まりにくい範囲を問う試験です。苦手なパートを早く見つけ、重点的に補強することが合格への近道になります。
レベル3の取得を目指す過程では、今の職場でレベル3としての役割を担えるのか、手順書の作成や品質保証に関わる仕事に広げられるのかといった、働き方の問いも出てきます。こうした問いは、受験時期と実務経験月数の段取りとあわせて、テンキャリの無料キャリア相談(費用は一切かかりません)で一緒に整理できます。転職するかどうかは、話してから決めれば大丈夫です。今の資格と経験で選べる道を並べ直すだけでも、勉強の先にある次の一手が見えやすくなります。
